出会いに導かれてはじめた豆腐作り
「考えてみ、小学生がいきなりプロ野球巨人軍に入れるか?」
その職人さんは、私の目をじっと見て言いました。
「悪いことは言わん。うちで何年か修行せえ、そしたらもしかしたら薪で炊く豆腐をお前さんもできるようになるかもしれんぞ。」
心配そうに声をかけてくれたその方に深々と頭を下げながら、
「無茶だ」と言われながらも龍神でやれそうな気がしていたのは、
もちろん若気の至りだったのですが、それだけではなく豆腐屋への道を導いてくれた恩人が何人もいたからでした。
古座川町の塩職人さん。末期癌で余命が短いのを知り奈良から移住して塩を作っていたこの方に、「山の恵みの大豆と海の恵みのニガリが出会って生まれる豆腐を、お前が作れ」と強く勧められていなかったら。龍神の豆腐名人のおばあさん。出来たばかりのるあんの作業場で、ぺらぺらカスカスの豆腐しか作れず頭を抱えていた私の所に、飄々とやってきて見事な豆腐を作ってくださらなかったら。
るあんの豆腐は、私一人が作っているものではなく、この地にかつて暮らし今も暮らす皆さんが、私の体を使って日々生み出しているものなのです。